ポケティプロジェクト旗揚げ公演
「2001年版 ボクラノ時代 -恋するロボット-」
2001年10月6・7日
あかつきホール
キャスト
山田佐代子 植田良子 ロビイ 宮田忍
上野由香里 田井敦子 吉山亜矢子 市谷まど香
スタッフ
作 やまもとけいぞう
演出 北條きみよ
舞台 川田正明
音響 淀谷由紀
照明 小野坂有里子
デスク 植田良子
フライヤーデザイン 植田慎吾
ロゴマークデザイン 田中規幹
制作 ポケティプロジェクト
私は知らない。たぶん、私は、恋というものを知らない。
いつからか、私の心の中には、あの人がいて、私は、その 姿を追い求めている。ある時、あの人は、私に、やさしく 微笑む。別の時、あの人は遠くを見る。たぶん、遠くの海 を見る。そして、私を振り返り、何故だか悲しそうに微笑 む。時には、私はあの人に甘えることがある。あの人も私 に甘えることがある。また別の時、あの人は、私の、すぐ 隣にすわっている。それは、やわらかな日差しの差し込む 喫茶店で、あの人は、私のすぐ隣にすわっている。私は、 手を伸ばし、あの人の手に触れる。あの人は、私の手を握 り返す。その手のやわらかさ、私は、それを記憶に留めよ うとする。こんなふうに、私は、起こったかもしれない私 とあの人の出来事を、一つ一つ確かめていく。そして、ど うしてもわからないことがあることに気付く。何故、あの 人は、あんなふうに悲しそうな顔をして微笑んだのか。私 達は、喫茶店でいったい何を話したのか。こんなわからな いことを考えようとすると、何故だか、喫茶店の誰もすわ っていない椅子のことばかりが、思い浮かんでくる。第一 、私には、あの人の顔が、まるでわからない。記憶のその 部分だけが、欠落したように、白い。まるで、誰もすわっ ていない椅子が白く光っているようだ。あの白さ。あれは 喫茶店に差し込む日差しの白さだったのか。それでも、私 は、必死にあの人を思い出そうとする。ひょっとしたら、 一度も会ったことのないあの人の記憶を、探し求める。と うとう、私は、思い浮かべられる限りの異性の姿を思い浮 かべる。そして、その中に、あの人の姿を探す。しかし、 あの人は、その誰とも似ていない。そればかりか、まるで 、あの人は、現実には存在し得ないようなのだ。現実の人 間は、それが現実に存在するというそのことで、既にあの 人とは違ってしまっているような気さえしてくる。あなた は、いったい誰なの。でも、いつからか私は、あの人が現 実の人間として私の前に現れるときを待っている。これが 恋ということなのかもしれない。でも、もしそうならば、 私は、いったい誰に恋をしているのか。だから、たぶん、 私は、恋というものを知らない。私は、知らない。
空腹で何かを食べたいと思うことや、睡眠不足で眠りたいと思うことが、
いったいどんなことか疑問を持つことは、まず絶対にないんだけれど、
人間の気持ちというものはそう単純なものばかりじゃなくて、
人を恋する気持ちなんていうものは、
恋する本人にしても、なんだかわからない気持ちなんじゃないだろうか。
恋するということを知らない人に、そのことを説明しようとする場面を想像すると
これは多分もう笑うしかないわけで、このお話は、それが出発点。
でも、そんななんだかわからない人間という存在は、
そうだからこそ素敵なわけで、人間が生きるっていうことが
少し悲しくて、でもとても素敵なことだと思えたら、
ゴール、というわけです。